NTLive『ストレイト・ライン・クレイジー』

10/25 TOHOシネマズ日本橋で『ストレイト・ライン・クレイジー』 作:デヴィッド・ヘア 演出:ニコラス・ハイトナー

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ニューヨークのマスタービルダー(創造主)と呼ばれた男、ロバート・モーゼスは権力者を操りNYの労働者の生活を向上させるために40年間尽力してきたが、彼と対立する考えの抗議団体が現れ、民主主義の弱点が露呈することに・・・。

私はロバート・モーゼス(1888-1981)という人物について全く知らなかったのだけど、この舞台は2部構成になっていて、前半では労働者にはレジャーが必要だと訴えて富裕層の私有地を州立公園にするためにモーゼスが孤軍奮闘する姿を描き、後半で彼の計画は実は車を所有できる経済力のある白人を対象にしたものであり、貧困層や有色人種を見下し蔑ろにしてきた事実が炙り出されていく。もともと裕福な家庭に生まれて、自分では一度も車を運転したことがない(ずっと運転手付きの車に乗ってきたから)というモーゼスは、自分がやりたいことは何か、そのためには何をしたらよいか、という明確な目的と手段を持った人物であったことは間違いないけれど、自分以外の他者に対する興味や関心は全くと言ってよいほど持ち合わせていない。そんな傲慢で横柄で高圧的な男をレイフ・ファインズが嬉々として演じている。モーゼスの胸を張るというよりも反り返るといった方がいいような姿勢や、やたら腰に手を当てる仕草が、最初はなんだか下手な役者が身振りで演技の拙さを誤魔化しているような感じで違和感があったのだけど、物語の後半で威勢の良い言葉を吐いて偉そうに振舞っていても内心では人からどう評価されるかをひたすら気にしている男の弱さがあからさまになり、あの姿勢も仕草も結局は自分を実際よりも大きく見せたいという、それこそモーゼスの演技だったのだなと腑に落ちた。あと劇中で豪放磊落な知事を演じていた俳優がとてもよくて、観たことあるけど何に出ていたかなと考えていたのだけど、「エイリアン3」で一人だけ生き残る囚人モース役のダニー・ウェッブだった。映像でも客席が大いに沸いている様子が伝わってきて、観客の心を掴むチャーミングな魅力に溢れていてすばらしかった。