小松台東『シャンドレ』

5/31 三鷹市芸術文化センター星のホールで小松台東『シャンドレ』 作・演出:松本哲也

2020年の初演の舞台は観ていないので今回の再演が初見。4人の俳優で何役も演じ分け、一つの部屋だけで物語が展開するこれまでの小松台東の作品とは趣きが違って、会社の詰所、スナック、喫茶店、街角などあちこちに変わるシーンを照明と音響が巧みに表現している。アパートの一室は最後の10分ほどしか出てこないのに、非常に細かいところまで作り込まれた美術のこだわりがすごい。俳優それぞれの演技もとても良い。登場人物たちは概ね不機嫌だったり不満を抱えたりしているのだけど、微妙な表情の変化とか間の取り方から互いの気持ちの隔たりが如実に伝ってくる。お酒を巡るあれこれを通してそれぞれの負の感情があらわになっていく様を見ているうちに、酒は飲んでも飲まれるなと分かってはいても酒に逃げてしまう人間の弱さとか、酒の勢いで口にしてしまった言葉の取り返しのつかなさとか、酒飲み派の一員として我が身を振り返らずにはいられなくなり、記憶から消し去りたい過去の醜態が嫌でも頭に浮かんで叫びたくなる感じだった。物語の後半で松本哲也演じる男が毎夜毎夜シャンドレに通うのは、耐え難い事実(彼はEDであるらしいことが明かされる)からの逃避であることが分かり、タチの悪い酔っぱらいが隠し持つ苦悩が垣間見えてくる。そして記憶をなくすほど酔った挙句に同僚に斬りつけて傷つけてしまう結末は重たく辛い。「酒が全てを台無しにする」とチラシにあるけれど、舞台上に漂うのは人生台無し上等とでもいうような諦念と孤独で、それはとても哀しいと思った。