『パラダイス』

10/19 シアターコクーンで『パラダイス』 作・演出:赤堀雅秋

舞台は東京、新宿。表層的には豊かに⾒える平和ぼけしたこの街で、 虚無感を抱え、底辺で蠢く⼈間たちの不⽑な戦いと裏切り、つかの間の栄枯盛衰の物語。

高齢者を狙った振り込め詐欺グループの話というのはこれまでもあちこちで作品になっていると思うので題材に特段の目新しさはないけれども、この舞台では主人公であるグループリーダーの男が、お金のために他人を騙す悪事を続けながらも、実家の猫の失踪を気に掛けたり自分の家族には気遣いを示したり、ひとりの人間の中に見える二面性の対比が面白い。仕事に15分遅刻した詐欺メンバーに殴る蹴るの鉄拳制裁を加える男は、実家に帰った時には無口で心優しい息子であり、両親も姉も彼がそこに居ることを喜んでいるし、彼も大人しく家族の聞き役に徹している。彼が裏の世界で自分を育ててくれた兄貴分の男に対して殺意を抱くことになるのも、自分の家族に対する嫌がらせが許せなかったからだ。ヤクザとか犯罪者とかの抗争劇かと思いきや(劇中で撃たれたり刺されたり結構人は死ぬけれども)、実は並行して描かれる彼と実家の関係がメインの物語なのだと受け取った。詐欺グループも彼にとっては疑似家族といえるものだったと思うのだけど、そちらが積み重なった不信の果てにあっけなくバラバラになって終わる一方で、実際の家族の日々はこれからも淡々と続いていくだろうことが示される結末。決して家族万歳みたいなことではないのだけれど、それでもギリギリの土壇場で問われる価値観とか選択に家族の存在は影響があるのかもしれないと思った。私が好きな俳優としての赤堀雅秋は、心療内科に通う情緒不安定な男の悲哀を絶妙に演じていて今回もとても良い。そして兄貴分の腰巾着、いつもジャージ姿でテンション高めの能天気な挙動の裏に抱え込んだ狂気が滲む男を演じた水澤紳吾がとても印象に残った。