M&Oplaysプロデュース『クランク・イン!』

10/12 本多劇場で『クランク・イン!』 作・演出:岩松了

1人の新人女優・堀美晴が亡くなった。そのために暗礁に乗り上げていた映画の製作が「この映画を完成させなければ!」という関係者たちの思いのもと、クランクインの時を迎えた。監督・並之木顕之(眞島秀和)からは今や飛ぶ鳥を落とす勢いの主演女優・羽田ゆずる(秋山菜津子)にも繰り返しダメ出しが飛ぶ。そんな中、プロデューサーの紹介でそれなりの役に抜擢された女優ジュン(吉高由里子)が徐々に存在感を増してくる。撮影のために世間から隔絶された場所で、主演女優、マネージャー(富山えり子)、ベテラン女優(伊勢志摩)、若手女優(石橋穂乃香)、それぞれの思惑と愛憎が次第に顕之を追い詰めてゆく――。 堀美晴は殺されたのか、だとしたら誰が彼女を殺したのか……撮影現場は次第に混沌としていき、やがて悲劇的な結末を迎える――。

熱烈なファンであることをアピールして大女優の付き人になった新人女優が主役の座を奪うという展開は「イヴの総て」を思い起こさせるけれど、すべてが計算ずくで小賢しいイヴと比べてこの作品のジュンの言動は、どこに真意があるのか非常に曖昧で掴みどころがない。これは吉高由里子の声質によるところも大きいと思っていて、ひよひよふわふわしていて何を考えているのか分からないという印象がより強まる感じ。このジュンという役はあてがきなのだろうか、舞台上ですごく映えるとか目を引くというタイプではないけれど、あの声で役を味方にしていると思った。この作品では「美晴を殺した犯人は誰か」ということはあまり問題ではなく(途中で犯人は割りとあっさり明かされる)、そんな謎解きよりも中心になるのは「とにかく人は嘘をつくものだ」と示すことだ。保身のための嘘、体面のための嘘、取り入るための嘘、傷つけないための嘘。人は嘘を鎧にしたり剣にしたりしながら生きているものなのだとつくづく思わされる。いつもどおり余白が多くすべてを語らない岩松脚本に答え合わせはなく、いつもどおりぐるぐる考えながら劇場を後にした。