シス・カンパニー『ザ・ウェルキン』

7/27 シアターコクーンで『ザ・ウェルキン』 作:ルーシー・カークウッド 演出:加藤拓也

1759年、英国の東部サフォークの田舎町。

人々が75年に一度天空に舞い戻ってくるという彗星を待ちわびる中、一人の少女サリー(大原櫻子)が殺人罪で絞首刑を宣告される。

しかし、彼女は妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑だけは免れることができるのだ。

その真偽を判定するため、妊娠経験のある12人の女性たちが陪審員として集められた。これまで21人の出産を経験した者、流産ばかりで子供がいない者、早く結論を出して家事に戻りたい者、生死を決める審議への参加に戸惑う者など、その顔ぶれはさまざま。

その中に、なんとかサリーに公正な扱いを受けさせようと心を砕く助産婦エリザベス(吉田羊)の姿があった。

果たして、サリーは本当に妊娠しているのか? それとも死刑から逃れようと嘘をついているのか?なぜエリザベスは、殺人犯サリーを助けようとしているのか…。

法廷の外では、血に飢えた暴徒が処刑を求める雄叫びを上げ、そして…。

コロナの影響で公演の一部中止や取り止めのニュースが相次いでいて、私も今月は2公演『導かれるように間違う』と『ヒトラーを画家にする話』のチケットが払い戻しになってしまった。『ザ・ウェルキン』も21~24日までの公演が中止になって、これはまた駄目かなと思っていたのだけど、昨日無事にというか再開されて観劇することができた。この舞台は2020年1月にイギリスのナショナルシアターで初演されたものだそうで、加藤拓也が初めて翻訳戯曲を演出するということも楽しみだったし、「12人の怒れる男」を思わせる設定を女性に置き換えてどんな物語が展開するのかも興味があったのだけど、考えていた以上に辛く重たい内容に打ちのめされた。サリーの妊娠の真偽をめぐって12人の女性たちが交わす言葉からはそれぞれの立場や生活が垣間見え、男性中心社会で女性がどのように扱われてきたか、家事をし子育てをし、何より子供を産むことが女の仕事(妊娠していれば死刑を免れるというのもそういうことだろう)であった時代の背景が浮かび上がってくる。父親や兄弟を含む大人の男たちによる少女への性暴力に対する言及もある。そしてそれらは遠い昔の出来事ではなく、現在にも繋がる問題として観客に提示していると思った。13人の女優陣が演じる女性たちは各々の個性やキャラクターがとてもしっかり描き分けられている。那須佐代子と峯村リエがとても印象に残った。それと劇の序盤、陪審員となった女性たちが一人ずつ自己紹介をする場面の照明の使い方が良かった。大原櫻子の激情爆発という演技と対照的に、吉田羊は台詞が一本調子で面白くなく舞台で演じるのを初めて観たけどあまり好みではなかった。