『秘密の森の、その向こう』

10/18 ヒューマントラストシネマ有楽町で『秘密の森の、その向こう』

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8才のネリーは両親と共に、森の中にぽつんと佇む祖母の家を訪れる。大好きなおばあちゃんが亡くなったので、母が少女時代を過ごしたこの家を、片付けることになったのだ。だが、何を見ても思い出に胸をしめつけられる母は、一人どこかへ出て行ってしまう。残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。母の名前「マリオン」を名乗るその少女の家に招かれると、そこは“おばあちゃんの家”だった──。

セリーヌ・シアマ監督の新作。女性同士が恋に落ちていく様子を緻密に描いた「燃ゆる女の肖像」は非常に心に残る映画だったけれども、今回は三世代にわたる母と娘の物語だ。原題の「Petite Maman」(小さなお母さん)は、ネリーが出会う8歳の時の母親を指していることはもちろん、たとえば映画の冒頭で運転席の母親の口元にせっせとお菓子を運んで食べさせたりする様子からも分かるように、ネリーが日頃から母の心情を気遣い、細々と世話を焼くことでそれこそ母親のように振舞っていることも表しているのだと思う。ネリーが「ママはここに居たくないみたいな時がこれまでにもあった」と言うように、マリオンには夫と娘との暮らしだけでは満たされない思いがあるようで、その不安定さがネリーに母親を支えようとする気持ちを起こさせているのだと思う。ネリーは森の中で23年前の母親とおばあちゃんに出会って3日間を過ごすのだけど、そこでネリーが目にする母と祖母の関係にもどこかしら捻じれが感じられる。親子とはいえ全てを理解している訳ではもちろんなくて、上手くいかない部分も肯定できない部分も互いにあって、血の繋がりがあると思うからこそ余計に感情がこじれてしまう。マリオンが逃げるように家を出ていったのは、楽しかった日々だけではなく哀しく辛かった思い出も蘇ってきたからだろうし、最後にネリーの元に帰ってきた時のマリオンはきっと亡くなった母親への想いに何かしらの折り合いを付けたのだと思う。ネリーは戻ってきた母親にこの3日間の話をきっとするだろう。そして母と娘は親子という枠を超えて向き合って共にあらたな一歩を歩み出すのだろうと思える結末は心地よいものだった。