劇団た組『ドードーが落下する』

9/27 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオで劇団た組『ドードーが落下する』 作・演出:加藤拓也

「見えなかったら大丈夫と思ってたのに。実は価値が無いものは見えない方が世間はすごく良くなるんですよ。だから僕をそうしてもらったんですね、こいつに 」
イベント制作会社に勤める信也(藤原季節)と芸人の庄田(秋元龍太朗)は芸人仲間である夏目(平原テツ)からの電話に胸騒ぎを覚える。三年前、夏目は信也や友人達に飛び降りると電話をかけ、その後に失踪していた。しかしその二年後、再び信也に夏目から連絡がある。夏目は「とある事情」が原因で警察病院に入院していたそうで、その「とある事情」を説明する。それから信也達と夏目は再び集まるようになったものの、その「とある事情」は夏目と友人達の関係を変えてしまっていた。信也達と夏目との三年間を巡る青春失踪劇。

劇団た組の新作を最前列で観てきた。平原テツの演技に圧倒された。友人たちや嫁やバイト先の店長が発する言葉のいちいちに深く傷つき、自己嫌悪と承認欲求の狭間でのたうち回るその泣き笑いの表情が、夏目の苦しみを観客に突き付ける。売れない芸人の夏目をあからさまに見下していることを周りは隠しもせず、そんな年月が夏目の精神を少しずつ狂わせていった…という話だと思って観ていたのだけど(以下ネタバレ)上記のあらすじにある「とある事情」とは、夏目は統合失調症を患っていて10代の頃から投薬による治療を続けていたのだということ。夏目はテンション高めでちょっと変わっているけど面白い奴という見方が、病気というフィルターが掛かった途端に歪んでいくさまが時系列を前後しながら描かれていく。病名が知られたら周りから友人がいなくなるという過去の経験をもう二度と繰り返したくないという夏目と、病気を公表してそれを芸人としての売りにすることを提案する信也。思いはすれ違い2人は激しく言い争うのだけど、このシーンの夏目の哀しみは本当に胸に来るものがあった。言葉による暴力や障害を抱えたひとに対する視線、そして「もはやしずか」でも描かれていた、相手が何を考え何を感じているか本当に理解するなんて出来ないということ、善意のつもりの行ないが反対に相手を傷つけることもあるということに加えて、理解できないとしても寄り添い受け入れようとする姿勢が感じられるラストには少しだけ光が見えたような気がした。