『私の一ヶ月』
11/17 新国立劇場小劇場で『私の一ヶ月』 作:須貝英 演出:稲葉賀恵
新国立劇場の新シリーズ【未来につなぐもの】の第一弾。英国ロイヤルコート劇場と新国立劇場がタッグを組んで、若い劇作家のために実施したワークショップから生まれた新作とのこと。幕が開くと舞台上には3つの空間が設定されている。真ん中はどこかの地方のコンビニ、左は都会の大学図書館、右は地方の家の茶の間だ。私はあらすじを読まずに観たので、最初この3つの空間の関係が掴めず、同時に何がしかのことが起きているけれどもどうやらそれぞれの空間の時代は異なっているらしいということが観ているうちに分かってきた。終演後にチラシの裏側をみたらしっかりその説明がしてあった。
3つの空間。2005年11月、とある地方の家の和室で日記を書いている泉。2005年9月、両親の経営する地方のコンビニで毎日買い物をする拓馬。そして2021年9月、都内の大学図書館の閉架書庫でアルバイトを始めた明結(あゆ)は、職員の佐東と出会う。やがて、3つの時空に存在する人たちの関係が明らかになっていく。皆それぞれが拓馬の選んだつらい選択に贖いを抱えていた......。
時代と場所を行き来しつつ淡々と静かに過去の出来事が明かされていく。自死した拓馬に対して責任と後悔を抱えて生きてきた大人たち、妻であった泉、拓馬の両親、学生時代の友人だった佐東、それぞれをつなぐものとして泉と拓馬の娘である明結の存在があり、過去を抱えながらそれでも明日も生きていくのだとそれぞれが思いを新たにし、そして泉がつけていた日記によって明結もまた一歩前に進む決意をする。この舞台は俳優陣がとても達者で、泉を演じた村岡希美も佐東を演じた岡田義徳も良かったけれども、拓馬の父親役の久保酎吉が本当にすばらしかった。息子の友人であった佐東の現在をずっと気に掛けてきたことが分かる場面は、ひとがひとを思いやること、計算ずくではないその純粋な気持ちが切々と伝わってきて胸を打たれた。