城山羊の会『温暖化の秋』
11/16 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオで『温暖化の秋』 作・演出:山内ケンジ
インタビューでタイトルの意味を聞かれた山内ケンジが「温暖化は気候のことではなくて、心のありよう」だと答えていた。と言われて芝居を観ても何を指して温暖化なのかはよく分からないのだけれど、些細なことをきっかけに自分でも予想外の感情が溢れてきたり、そんなつもりはなかったはずの行動が実は気づかなかった本音の表出だったり、曖昧で不安定で如何ようにも変化するのが人間の本性だったり欲望の向かう先だったりするということが、今回も何気ない日常会話の積み重ねから描かれていく。大スタジオを三方囲みの客席にして結構な傾斜のある舞台には切り株のようなものがいくつか置かれているだけだ。出演者はいわゆる舞台用の声ではなく、普通に会話をする時の声量で話すので時には全く台詞が聞こえない、というのもいつもの城山羊の会で、コロナ検査会場から出てきた若い男女の耳に「ねえ、あのひとマスクしてないわよ」という囁き声が聞こえてきたことから物語が動き出す。マスクの生活が当たり前となったまま迎えた2022年の秋に、振りかざされる正義感とか、仄めかされる批判とか、逃れづらい義務感とか、そんな窮屈で鬱陶しい毎日にうんざりしながらもどこかしら諦めの気持ちも抱えた登場人物たちのとある一日が交差していく。常連の岡部たかしと岩谷健司の安定感は言わずもがなで、橋本淳も悪くはないけれど4月に観た劇団た組「もはやしずか」の印象があまりにも鮮烈でそこには及ばなかった感じ。今作はとにかく城山羊の会初参加という趣里とじろう(シソンヌ)の2人がとても良かった。趣里はすごく小柄で顔も驚くほど小さいけれど、舞台上で目を引く存在感がある。フィアンセの元カノに対してマウントを取ろうと躍起になる姿からは可愛さの内側に隠したどす黒い感情が見え隠れする。台詞も上手だ。じろう(シソンヌ)はごく平凡な会社員だけどちょっと嫌味な性格の男を小細工なしでまっすぐに演じていて、いけすかない奴だと思っていたら本当はいい奴だったみたいなことが最後に明かされるのだけど、その変化を納得させる説得力があった。観終わってみるとそれぞれの思惑が絡み合った末にこの2人(趣里とじろう)が結ばれる、今作は実はラブストーリーなのだった。