『世界は笑う』

8/17 シアターコクーンで『世界は笑う』 作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

舞台は、昭和30年代初頭の東京・新宿。敗戦から10年強の月日が流れ、巷に「もはや戦後ではない」というフレーズが飛び交い、“太陽族”と呼ばれる若者の出現など解放感に活気づく人々の一方で、戦争の傷跡から立ち上がれぬ人間がそこかしこに蠢く…。そんな殺伐と喧騒を背景にKERAが描くのは、笑いに取り憑かれた人々の決して喜劇とは言い切れない人間ドラマ。

戦前から舞台や映画で人気を博しながらも、時代の流れによる世相の変化と自身の衰え、そして若手の台頭に、内心不安を抱えるベテラン喜劇俳優たち。新しい笑いを求めながらもままならぬ若手コメディアンたちなど、混沌とした時代を生きる喜劇人と、彼らを取り巻く人々が、高度経済成長前夜の新宿という街で織りなす、哀しくて可笑しい群像劇。

こんなにビターな物語だとは全く予想していなくて、もちろん笑える楽しいシーンはたくさんあるのだけど、とてもノスタルジックな作品だと思った。まず喜劇人たちの群像劇を描くにあたり時代の設定が絶妙。テレビの本放送が開始されたのが昭和28年、経済成長へと向かいながらもまだ戦争の記憶が燻ぶる昭和30年代前半。テレビで活躍する芸人が出てくる中で、喜劇俳優たちを取り巻く状況も大きく変わってくる。喜劇人のやりたい放題でむちゃくちゃな生き方を描いていても、“笑い”に対する狂おしいほどの愛がひしひしと感じられるから、登場人物たちの人生を応援したくてたまらない気持ちになる。劇中で喜劇俳優たちの劇団は解散し、みんなバラバラになってしまうけれど、最後に用意されていた小さな救いにホッとしてあたたかい気持ちで劇場をあとにした。KERAさんの舞台は冒頭で俳優陣を紹介するプロジェクションマッピングが毎回本当にすばらしいのだけど、今作も非常に計算された美しい映像を思う存分楽しませてもらった。