『スワンソング』

9/28 シネスイッチ銀座で『スワンソング

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現役生活を退き、老人ホームでひっそりと暮らすパットは思わぬ依頼を受ける。
かつてのパットの顧客で、街で一番の金持ちでもあったリタが「死化粧はパットに頼んでほしい」という遺言を残していたのだ。
ゲイとして生き、最愛のパートナーであるデビッドを早くにエイズで失っていたパットの心に、過去のさまざまな思い出が去来する。すっかり忘れていた仕事への情熱、友人でもあったリタへの複雑な思い、そして自身の過去と現在...。

ヘアメイクドレッサーとして活躍してきたパトリック・ピッツェンバーガー、通称“ミスター・パット”にとっての「スワンソング」は、わだかまりを残したまま亡くなってしまったリタを天国へと送り届ける仕事になるのか——。

監督のトッド・スティーブンスも、主演のウド・キアーもオープンリーゲイということで、当事者の目線で描かれたこの映画は、偏見や差別と闘ってきた先人たちへのリスペクトを強く感じるものだった。現在多くの国で同性婚が認められ、同性同士でも子供が持てるようになったのは、勇気をもって声を上げ続けてきた人たちがいたからこそ勝ち取れた権利であるということ。ウド・キアーの演技はすばらしく、パット(実在の人物がモデルだそうだ)と知り合いだった人々から直接その仕草や話し方を聞いて研究したのだそうで、誰に対してもフレンドリーで、毒舌にも憎めないユーモアが溢れていて、歳を重ねてもチャーミングなミスター・パットに好感を持たずにいられない。もう自分には何の価値もない、ただ死を待つだけだと考えていたパットだけど、いくつになっても新たな出会いや発見には人を変える力があり、自分の存在が誰かの背中を押すこともあるのだと伝えるやさしい映画。ただこの映画は人物の気持ちを代弁するような歌詞の曲が全編通してずっと使われているのだけど、私はこの音楽の使い方があまり好きではなくてちょっと古い感じがした。