オフィスコットーネプロデュース『加担者』

8/30 下北沢の駅前劇場で『加担者』 作:フリードリヒ・デュレンマット 演出:稲葉賀恵(文学座

大学で生物学の研究をしていたドクは、高額報酬を提示され民間企業に移籍する。
しばらくは豪勢な生活を謳歌していたが、経済危機により失業。とりあえずタクシー運転手で身をたてていたが、マフィアのボスに拾われ、元生物学者のドクのアイディアでマフィアが暗殺した死体を地下室で溶解するビジネスを始める。
そんなある日、ドクはバーで偶然アンという女性と出会い愛し合うようになる。そこにかつての息子も訪れ、事態は思わぬ方向へ動いていく・・・。

デュレンマット作の舞台を観るのは、昨年9月「物理学者たち」、今年6月「貴婦人の来訪」に続いてこれで3作目だ。先の2作を面白く観たので今回も楽しみにしていたのだけど、この作品は手触りが少し違っていて、前2作を書いたあとに新たな挑戦というか描き方の変化を作家が求めたのだろうかとか思った。まず幕開きに暗転からパッと照明が点くと舞台上には俳優たちが一列に並んで立っていて、無表情でまっすぐ前に視線を向けている。これがほりぶんなら俳優たちが一人ずつ自己紹介をして、自分の演じる誰々がこうこうしたらこうなります、とこれから演じる作品のネタバレを繰り広げるところだ。今作では俳優たちは登場人物としてそこに立っていて、この人たちによって描かれる話なんだなという認識が一通り客席に行き渡ったところで、主人公のドクの一人語りが始まり物語が動き出す。序盤はずっとドク視点で話が進むのだけど、途中から語り手は次々に代わり、また時間軸も前後しているので、ある人物が結果を語った後にそこに至った出来事が描かれる、また別の人物は更にその裏で起きていた出来事を語る、という具合にとても多層的な構造になっていて、観ていて頭を使うけれども面白い。元科学者が自分の知識と才能を歪めて使ってしまったがために喰らう手酷いしっぺ返し。最初にドクは半ば自棄になって意識的に悪事の加担者になったわけだけど、劇を通して描かれる重なった層から見えてくるのは、他者との係わりの中で気付かないうちに自分の発言や行動が誰かの何かに触れ、結果起こった出来事の無意識の“加担者”にもなっていたということだ。と書くとすごく重たい芝居みたいだけど、思わず吹き出すような場面もあり、差し込まれるユーモアには演出の稲賀賀恵のセンスと俳優陣の力量を感じた。