ほろびて『苗をうえる』

2/22 下北沢OFF・OFFシアターで、ほろびて『苗をうえる』 作・演出:細川洋平

f:id:izmysn:20220224162748p:plain左手が刃になってしまった女子高生とその母親。母親がつきあっている無職の男。認知症になった老婆と、彼女の世話をしている孫の小学生男子。5人の登場人物によって描かれたのは“人が人を傷つけること”を巡る物語だった。刃になった手がうっかり相手を刺したり突いたりしてしまうように、何気なく口にした言葉で傷つく相手がいる。そして刃になった手という形で象徴されるように他人とは違う個性を持つ人たちがいて、そうした人たちに対する不寛容と差別の意識。いきなり不当な扱いを受ける立場に追い込まれ、それは誰にでも、もちろん自分にも起こり得るのだという怖さも滲む。劇中で相手を罵り攻撃する言葉には容赦がなくて辛辣であからさまな負の感情に満ちていて、言われた方がどう感じるかという思いはそこに一切なく、非常に耳に辛い。そんな絶望の底で、苗を買って育てるという行為が伝えるのは小さな希望の気配だと思った。苗がちゃんと育つように水をやり陽にあてて面倒を見ることが、ほんの少しでも他者を思いやる感情に繋がればいいと思うし、憎しみの感情を持って生まれてくる人間はいないのだから、子供たち=苗という見方もあるのではないかと思った。ほろびてを観るのはこれが3作目で、出演している俳優がみんな良いなと毎回思うのだけど、今作も俳優陣の生々しく巧みな演技は素晴らしく見応えがあった。