オパンポン創造社『贅沢と幸福』 ほろびて『心白』

2021年のせんがわ劇場演劇コンクールでグランプリ受賞のほろびてとオーディエンス賞受賞のオパンポン創造社。受賞団体はせんがわ劇場主催公演に招待されるとのことで、5/27 オパンポン創造社『贅沢と幸福』、6/2 ほろびて『心白』を観てきた。

どちらも受賞作の再演ではなく新しい作品の上演という事で、オパンポンもほろびても私がこれまでに観てきたものとは大きく感触が違う作品だったのが印象的だった。

5/27 オパンポン創造社『贅沢と幸福』 作・演出:野村有志

祖父が過去に人を殺して山中に埋めている、その遺体を掘り出して供養してほしいという父親の遺言に戸惑い葛藤する三兄弟の姿を描く。登場人物の誰かが人を殺す、もしくは殺されるだろうなと思いながら観ていて、やはりそうなったかという終盤まで捻じれた感情の交差が積み重ねられていく。そしてこの展開は、幕開きからずっと舞台の下手に居続ける小説家志望の男が部屋に呼んだデリヘル嬢(バイトで風俗をやっている三兄弟の次男の妻)から聞いた話を膨らませて書いている物語の再現なのだということが分かり、登場人物たちにはそれまで舞台上で描かれていた顔とは別のそれぞれの現実があることが最後に明かされて、野村有志はこんなバッドエンドな話も書くのかと驚いた。関西中心に活躍しているという俳優陣は初めて見た人も多かったけれども皆さん好演だった。あと照明の使い方がとてもよかった。

 

6/2 ほろびて『心白』 作・演出:細川洋平

これまでに私が観たほろびての作品は、他者に対する暴力や支配、差別や排除を容赦のない言葉で観客に突き付けていたけれど、今作は人と人とのつながりに向けられた眼差しが柔らかく、傷つき哀しみの中にいる人たちに寄り添うような作品だと思った。とある夫婦の物語と、風俗嬢とホームレスの男たちの物語が交互に描かれるその切り替わりの際に、俳優たちが舞台上に積まれた段ボールや椅子やがらくたを動かして次のシーンのセットを作る。中盤までふたつの話がどこに向かっているのかも登場人物たちの背景もまったく読めなくて、会話に集中しながら頭がグルグルしたのだけど、途中の転換であきらかに戦車を想像させるものが作られて、ああこれは愛する人の命を奪われた者たちの話なのだとふいに気付かされる。それぞれのモノローグによって事の次第が明らかになるのはいつものほろびての手法だけど、その言葉には辛い現実の中でそれでも生きていくことへのエールが含まれているように感じた。