『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』

7/29 ヒューマントラストシネマ有楽町で『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』

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囚人たちのために演技のワークショップの講師として招かれたのは、決して順⾵満帆とは⾔えない人生を歩んできた役者のエチエンヌ。彼はサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を演⽬と決め、訳あり、癖ありの囚人たちと向き合うこととなる。エチエンヌの情熱は次第に囚人たち、刑務所の管理者たちの心を動かすこととなり、難関だった刑務所の外での公演を実現するまでに。しかし思いも寄らぬ行動を取る囚人たちとエチエンヌの関係は、微妙な緊張関係の中に成り立っており、いつ壊れてしまうかもしれない脆さを同時に孕んでいた。
ところが彼らの芝居は観客やメディアから予想外の高評価を受け、再演に次ぐ再演を重ね、遂にはあの大劇場、パリ・オデオン座から最終公演のオファーが届く!
果たして彼らの最終公演は観衆の喝采の中で、感動のフィナーレを迎えることができるのだろうか?

エンディングロールで流れる説明文によると、この映画は1985年にスウェーデンで起きた実話をベースにしているそうだ。囚人たちが演じる「ゴドーを待ちながら」公演の最終日、開演前に劇場から囚人たちが逃走してしまった。この事件を聞いたサミュエル・ベケットは「まさに不条理な展開だ」と喜んだとか。それを基にして作られたこの映画では講師のエチエンヌと囚人たちが芝居の稽古を通して関係を築いていく過程を丁寧に描いている。釈放される日をただ待つしかない囚人たちに、ゴドーを待ち続けるウラジーミルとエストラゴンを重ねたエチエンヌの狙いは見事に当たって、とはいえそのように受け取るのは芝居の観客たちであって、当の囚人たちは単調な刑務所暮らしの中で戯曲を読み台詞を暗記し役を演じることにいつしか夢中になっていく。そして結末は実話のとおり、最終公演で大喝采を浴びて映画が終わるとならないのが良い。ラストの20分はエチエンヌの一人語りだ。その言葉には演劇に対する愛が溢れていて、芸術には人生を豊かにし心を満たしてくれる力があること、そんな経験を共にした囚人たちへの感謝の想いが語られるのだ。「あなたはもう席を立てない」という宣伝文句は言い過ぎだと思うけど、エチエンヌも囚人たちも俳優陣の演技は本当にすばらしかった。