阿佐ヶ谷スパイダース『老いと建築』

11/10 吉祥寺シアター阿佐ヶ谷スパイダース『老いと建築』 作・演出:長塚圭史f:id:izmysn:20211112144157p:plain

築40年の古家に一人で暮らす老婆。亡くなった夫の命日で子供たちや孫たちが久しぶりに訪れているが、老婆の物言いは捻くれて意地悪くとても冷たい。特に娘との仲は険悪で、長年の確執が2人の会話から伝わってくる。子供たちの間では、老婆を施設に入れるとか引き取って同居するとか家の建て壊しとか、そんなことが話されているのだけれど、老婆はこの家を離れて暮らす気はさらさら無い。建築当時に描いていた夢や希望、設計図を前にしてああしたいこうしようと語った思い出。自分と同じく家もまた老いていき、夢は消え去って非情な現実が目の前に横たわる。老婆の中で今と過去の境が曖昧になっていく中で、娘との間に一体なにがあったのか、その謎が明かされていく。誰にでも訪れる老いと孤独に古くなっていく建物の姿を重ねた物語が秀逸。老婆を演じた村岡希美が本当にすばらしかった。メイクには一切頼らずに発声と身体表現でひとりの女性の30代から70代までの生き様を見事に立ち上げてちょっと凄味すら感じた。いい女優さんだなと思っていたけど今回その思いをさらに強くした。そしてこのところ劇団公演の観劇がたまたま続いて、劇団メンバーの役者を活かすあて書きの強みが今作も出ていたと思うし、名のある俳優を集めたプロデュース公演もいいけれど、カーテンコールで出演者がTシャツとか公演パンフの購入を切実にお願いしたり、出演していない劇団員が客入れを手伝っていたり物販コーナーで声を上げてたり、自分たちで全部やる手作り感が伝わってくるのも劇団公演の良さだなと思った。