『エルヴィス』『ベイビー・ブローカー』

7/13 TOHOシネマズ日比谷で『エルヴィス』『ベイビー・ブローカー』

『エルヴィス』 バズ・ラーマン(脚本・監督)がカラフルな映像と旋回するカメラワークで息つく間もなく一気に見せるエルヴィス・プレスリーの半生。主演のオースティン・バトラーはとてもチャーミングにエルヴィスを演じていて、パフォーマンスも歌も見事だけれど、特に映画の後半、中年になり体型が崩れ出してからの佇まいとか表情はハッとするほど本人を思わせる。そして強欲マネージャーのパーカー大佐を演じたトム・ハンクスが本当にすばらしい。人当たりの良い笑顔の裏に垣間見える小狡さとか計算高さ、強気を装う小心者の弱さを、目線や細かな表情に滲ませてすごく巧いと思った。パーカー大佐の人物像が丁寧に描かれていることでエルヴィスとの確執の構図がより緊張感を増し、深みのある物語になっている。映画のエンディングでピアノの弾き語りで「アンチェインド・メロディー」を歌う本人の映像が流れるのだけど、エルヴィス・プレスリーというアーティストは本当に心から音楽を愛していたのだということが真っ直ぐに伝わってきてちょっと鳥肌だった。

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『ベイビー・ブローカー』 赤ちゃんポストに預けられた赤ん坊をめぐって他人同士がいつしか家族のような関係を紡いでいく。疑似家族の物語というところは是枝監督の「万引き家族」にも繋がる設定だ。映画の中で繰り返される「捨てるぐらいなら生まなきゃいいのに」という言葉。それに対して赤ん坊の母親が言う「生む前に殺した方がよかったのか」は、生まれない方がいい命も生まれなかった方がよかった命もない、という是枝監督の答えなのだろうと受け取った。ただ妊娠・出産に係わる問題は女性の問題でもあるという視点がこの映画は薄いのではないかと感じた。誰の命も大切、命に優劣はない、それは正論だけれども、妊娠・出産を望む/望まないには人それぞれの事情もあり思いもある。ひとつのケースを取り上げた物語の中で、そこまでの拡げ方は期待し過ぎか。

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