『シラノ』

3/3  TOHOシネマズ日比谷で『シラノ』

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2018年の舞台ミュージカルをジョー・ライト監督が映画化した作品。シラノ、ロクサーヌ、クリスチャンは舞台版と同じ俳優がキャスティングされたそうだ。言うまでもなく原作は「シラノ・ド・ベルジュラック」で、シラノは鼻が大きい男性ではなく低身長症の男性という設定になっていて、文武両道で魅力的な好男子なのに自分に自信が持てず、ロクサーヌへの恋心を打ち明けられないシラノ役をピーター・ディンクレイジが見事に演じている。ディンクレイジの出演作はいくつか観ているけれど、こんなに巧い俳優だったのかと正直驚いた。奥行きと深みを感じさせる声もとても良い。ロクサーヌ役のヘイリー・ベネットも、クリスチャンを演じたケルヴィン・ハリソン・Jr もはまり役で、美しい音楽とバレエダンスのシーンをふんだんに盛り込んだミュージカルにしたことで、甘くロマンティックな雰囲気に満ちている。シラノの設定以外にも原作からカットした場面や台詞を変えている部分があり、ロクサーヌへの想いの裏にシラノもクリスチャンも自分自身を欺いているという後ろめたさを隠していて、この映画ではその辛さがより強調された物語になっていたと思う。ひとつ気になったのは、松竹ブロードウェイシネマで観たケヴィン・クライン版(付け鼻あり)もNTLiveで観たジェームズ・マカヴォイ版(付け鼻なし)も、シラノが命を落とすのはロクサーヌを娼婦呼ばわりした相手との喧嘩で負った傷の為なのだけれども(ロクサーヌ自身が何人もの男と寝たと言っている)、この映画のロクサーヌはクリスチャンの死後、修道院に身を寄せて暮らしていて、シラノの死因は戦争で負った古傷の悪化が理由になっていて、ここはロクサーヌがたとえ娼婦に身を落としたとしてもシラノの愛は変わらないこと、彼女を守るために命を懸けたのだと伝える演出の方がよいのではないかと思った。