こまつ座『紙屋町さくらホテル』
7/6 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで、こまつ座『紙屋町さくらホテル』
作:井上ひさし 演出:鵜山仁
一人では出来ないこと、一人の人間の力を超えた何か大きな豊かなものとは...。
これは「人間の宝石」が織り成す物語。
昭和20年5月、広島の紙屋町さくらホテル。
新劇の名優・丸山定夫、そして宝塚少女歌劇団出身の女優・園井恵子を核とする
移動演劇隊のさくら隊。
ホテルの所有者である日系二世の神宮淳子と心やさしきそれぞれの事情を抱えた同居人たち。
淳子の従妹の正子、言語学者の大島先生、ピアノの得意な玲子。
日系人である淳子をスパイ容疑で監視する特高刑事・戸倉までが同居をはじめ
天皇陛下の密使海軍大将長谷川と陸軍中佐針生が身分を隠してホテルにやってくる。
果たしてその目的は...
この風変りなさくら隊が繰り広げる感動の物語。
劇場のロビーに、あなたが100年残したいと思う井上ひさしの戯曲をひとつ選んでくださいというコーナーがあって、タイトルが並んだ下に星のシールを貼るようになっていたのだけど、私は井上ひさし作品は今作を含めてこれまでに10作しか観ていなくて、ちょっとまだ条件を満たしていないような気がしたので眺めるだけにしておいた。100年後の世界がどうなっているのか全く想像がつかないけれど、井上ひさしの戯曲が上演され続けている世界であってほしいと思う。作家の言葉を通して、忘れてはならないこと・語り継がれるべきことをはっきりと打ち出し、この作品でも戦争によって命を奪われる人たちの無念、天皇や軍部の責任を問う視線に加えて、素人の寄せ集めであるさくら隊が劇中劇で演じる「無法松の一生」の稽古シーンからは、演劇に対する作家の愛がひしひしと伝わってくる。立場や肩書を超えて演じることに夢中になっていく隊員たちはいつしか互いを信じる強い気持ちで繋がっていく。そんな中でひとり複雑な感情を抱える陸軍中佐の針生を憎々しく演じた千葉哲也がとても印象に残った。好きな女優さんである内田慈を久しぶりに舞台で観ることができたのも嬉しかった。