イキウメ『関数ドミノ』

5/19 東京芸術劇場シアターイーストで、イキウメ『関数ドミノ』 作・演出:前川知大

ある地方都市で奇妙な交通事故が起こる。
見渡しの悪い交差点、車の運転手は歩行者を発見するが、既に停止できる距離ではない。
しかし車は歩行者の数センチ手前で、まるで透明な壁に衝突するように大破した。
歩行者は無傷。幸い運転手は軽傷だったが、助手席の同乗者は重傷。目撃者は六人。
保険調査員の横道はこの不可解な事故の再調査を依頼される。
改めて当事者と目撃者が集められた。
そこで目撃者の一人が、これはある特別な人間「ドミノ」が起こした奇跡であると主張する。
彼の発言は荒唐無稽なものだったが、次第にその考えを裏付けるような出来事が起こっていく_。

観劇後に「ドミノ幻想」で検索したのは私だけではないと思うのだけど、こんな言葉はどこを探してもなくて、これは前川知大が創造したものなのだった。何をやってもうまくいかないと感じている人間のそばに、何をやってもうまくいく(ように見える)人間がいる。そこに生じる羨望や妬み、なぜうまくいかないのかを自分に対して振り返ることなく他者に、相手はドミノだからという理由に当て嵌めて自分は不運だとただただ嘆く身勝手さ。自分には望んでも手に入らないものがあるという現実を前にして、それは如何ともしがたい力が介在しているせいだ、自分は被害者なのだと自身を正当化して保身を図ろうとする人間の姿が哀しい。これまでに観たイキウメの作品の中で私は今作を一番面白く感じた。劇団員の皆さんそれぞれの持ち味がよく出ていると思ったし、客演の中では温水洋一がとても良かった。