午前十時の映画祭『ファーゴ』

2/9  TOHOシネマズ日本橋で『ファーゴ』(1996年)

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多額の借金に悩む自動車ディーラーのジェリー(ウィリアム・H・メイシー)は、自分の妻を偽装誘拐させ、資産家の義父から身代金を引き出そうと考える。ジェリーに依頼されたカール(スティーヴ・ブシェミ)とゲア(ピーター・ストーメア)は、妻の誘拐に成功したものの、逃走中、職務質問をかけてきたパトロール警官を射殺し、その目撃者までも殺害。捜査に当たった身重の警察署長マージ(フランシス・マクドーマンド)は冷静な推理で少しずつ事件の真相に迫るものの、不測の事態が起こって更に死体が転がることになる……。

コーエン兄弟の映画の中でも好きな一本。久しぶりに映画館で観たけれど、登場人物を演じる俳優陣がとても良い仕事をしているとあらためて思った。フランシス・マクドーマンドはもとより、目撃者に“ヘンな顔”と連呼されるスティーヴ・ブシェミの小物感も、全く表情を変えないピーター・ストーメアの得体の知れなさも良い。特にウィリアム・H・メイシ―の演技はすばらしく、気が小さくて相手に言い返せない人間の弱さ、ことごとくやり込められる人間の悲哀を、その歪んだ表情と泣きそうに見開いた目で切々と伝えてくる。カールとゲアにナンパされる女子ふたりも、その如何にもあたまのわるそうな喋り方といい見た目といい、よく見つけてきたなと思うキャスティングに感心しつつこのシーンは大いに笑った。一面の雪景色の中で陰惨な殺人が雪だるま式に起きるのだけど、動機も引き金になる出来事もどこかしら滑稽で卑小だ。美しい自然を背景に愚かな人間たちの姿が描かれる悲喜劇。午前10時の映画祭11のラインナップの中でも楽しみにしていた作品で、やはり傑作、観られてよかった。