『アンチポデス』

4/15 新国立劇場小劇場で『アンチポデス』 作:アニー・ベイカー 翻訳:小田島創志 演出:小川絵梨子

ある会議室に男女8人が集められている。
そこがどこであるのか、いつであるのかも不明だが、リーダーであるサンディのもと、彼らは企画会議として「物語を考える」ためのブレインストーミングを始める。新たなヒット作を生むためである。
サンディは「ドワーフやエルフやトロルは無し」と言う。恐ろしさや怖さの中にも消費者が親近感を覚えるリアルな物語を採用したい、と。
既存の作品の焼き増しではない新しい物語を生み出すために、参加者たちは競うようにして自分の「リアル」な物語を披露していく。やがて会議室の外に世界の終末のような嵐が訪れる。

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新国立劇場の新シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」の第一弾。リアルな物語とは何なのか。自分が経験したリアルを言葉にして語れば語るほど、話はとても個人的な小さい世界に閉じていくようで、誰もが共感するような普遍的な物語には到底なり得ないものに思われてくる。あからさまに自分を語ることに抵抗を感じる者もいるけれど、そんなためらいは周囲からスルーされて、聞き手にウケるように巧く語れないとその場に居づらいような雰囲気が会議室に拡がっていく。三方から舞台を囲むように客席が組まれていて、語る人の言葉よりも聞き手たちの表情や目配せ、相槌や沈黙、もしくは椅子に座る姿勢などが雄弁にそのひとの感情を伝えてくる様を観客は目の当たりにする。ひとは口に出す言葉以外の部分でいかに多くのことを語っているかが如実に伝わってきて興味深い。言葉で本当のことを伝える難しさ、もっというと言葉で本当のことが伝わるのかという疑問。そもそも相手に伝えたいことと相手に伝わったことはイコールなのだろうか、同じことについて話していると思い込んでいるだけなのではないだろうか。そんな言葉をめぐるさまざまが頭をグルグルする戯曲であり、何かしらの答えが観客に示されるのではなく、それぞれが言葉というツールについて、相手の話を聞くと言う行為について、思いを巡らせ考えることを促す作品だと思った。