『彼女を笑う人がいても』

12/14 世田谷パブリックシアターで『彼女を笑う人がいても』 作:瀬戸山美咲 演出:栗山民也

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タイトルにある“彼女”とは樺美智子のことであり、60年安保を題材にしているのだけれども、主人公を新聞記者に設定したことで政府や社会に対するメディアの姿勢という視点が生まれ、当時と現在が交錯していく物語は今の時代にも響くものになっていたと思う。数秒の暗転で舞台上に1960年と2021年を交互に描き出し、1960年に“彼女”の死の真相を追い続けた記者の吾郎と、2021年に東日本大震災の被災者家族への取材中止を言い渡された伊知哉(吾郎の孫)の二役を瀬戸康史が演じる。このような社会派というか政権批判も含む内容の作品に出演するイメージがない俳優だったけど、反対にここで提起されていることは特別でも余所事でもなくて私たち自身の問題であると観客に伝える点でプラスに働いていたと思った。1960年にはこういうことがあった、そして2021年の今こういうことが起きていると示し、メディアの在るべき姿を問う作家の思いは明白だ。永井愛の「ザ・空気」シリーズにも通じるものだと思う。ただこの舞台では1960年も2021年も新聞記者の取材に登場人物たちが応えるという形で話が進んでいくので、会話よりも語りが圧倒的に多くなっており、語る人にも聞き手にも動きがないので、少々背景説明的というか解説の時間というような印象を受けてしまった。