『イロアセル』

11/24 新国立劇場小劇場で『イロアセル』 作・演出:倉持裕

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新国立劇場フルオーディション企画の第四弾。2011年に鵜山仁演出で上演された作品を今回は作家自身の演出によって上演するものだ。物語の舞台になるのは言葉にひとりひとり違った色がついている島。いつどこで誰が何を言ったのか、空を漂う色によって発言主はすぐに特定されてしまう。この「言葉に色がついている」という発想がまず面白い。色の濃淡には個人差があって、濃い色を持つ言葉は薄い色の言葉よりも影響力を持っていたり、言葉の色が薄いことがコンプレックスになっていたり。ある日、島の丘の上に檻が設置されて、本土から囚人と看守がやってくる。囚人も看守もその言葉は無色で、彼らの前で話をする時だけ自分たちの言葉も無色になることに島民たちは気付く。言葉の匿名性を手に入れたことで味わう快感。そして色のついていない言葉たちは島民たちを振り回し翻弄していく。これははっきりとSNSの弊害を描いた作品だと言えると思う。発言が特定される事によって言葉には責任が生じて、私は言っていないと誤魔化せない事にもなるのだけれど、特定されるから口を閉ざし黙っているという事もある。匿名だからこそ声にできることもあると思う。とはいえ匿名を都合よく利用して他者を無責任に誹謗中傷する態度は、この作品が書かれた10年前よりもさらにエスカレートしているのではと感じる昨今、この舞台は笑いに包みながら時代を刺す寓話として観客の心に響くものになっていた。そして次回、フルオーディション第五弾の作品は上村聡史演出「エンジェルス・イン・アメリカ」とのことで、誰が演じるのかキャストの発表も2023年の上演も今からすごく楽しみだ。