『林檎とポラロイド』

3/15 ヒューマントラストシネマ有楽町で『林檎とポラロイド』

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予告編を観た時には、記憶を失った男が少しずつ過去を思い出していく話なのだろうと思っていたのだけど、映画の途中でもしかしたら男は「記憶喪失のふりをしているのでは?」と疑問を感じ、それは物語を追うに従って確信になっていった。少しずつ観客に気付かせていく過程がとても巧みだ。そしてなぜ記憶喪失のふりをしているのか、終盤に明かされたその理由に涙がこみ上げた。妻を亡くしたという事実を受け止められず、すべて忘れたい、無かったことにしたい、消し去ってしまいたいという深い深い哀しみが、記憶喪失という逃げ場を見つけたのだ。この作品は状況や気持ちを説明するような台詞がほとんどなく静かな映像が多くを語り、そこに想像の余白も残る映画だ。患者として与えられていた部屋から2人で暮らしていた家に戻り、妻の遺品をひとり片付け始める男の表情には、最後の最後に現実と向き合う選択をした男の、これからも妻の思い出を胸に哀しみと共に生きていくという覚悟が滲んで胸を打たれた。とても好きな映画の一本になった。