オフィスコットーネプロデュース『サヨナフ—ピストル連続射殺魔ノリオの青春』

3/14 シアター711でオフィスコットーネプロデュース『サヨナフ—ピストル連続射殺魔ノリオの青春』 作:大竹野正典 演出:松本祐子

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フィスコットーネが大竹野正典没後10年記念企画として上演した作品のうち「埒もなく汚れなく」「山の声」「さなぎの教室」は2019年に観ていて、この『サヨナフ』は2020年に上演予定だったものが緊急事態宣言をうけて延期となり、今回あらためての上演となった舞台。この作品が初演されたのは永山則夫の死刑執行から5年後の2002年だそうで、それから20年が経った今、永山則夫と聞いてもピンとこない人も少なくないだろう中、私が観た回は補助席も含めて満席だった。死刑執行を明日に控えた一夜、永山の前に彼によって殺された4人の男たち、永山の母親、姉が幻影となって表れ、彼らの言葉から永山則夫の幼少期から19歳で殺人事件をおこすまでの半生が明かされていく。父親の失踪、母親の育児放棄、兄たちからの虐待暴力など、その家庭環境は辛いもので、居場所がみつからず職場も住まいも転々としながら孤独を募らせ歪んでいく永山の姿を通して、生まれや育ちによる格差、貧困の連鎖など、現代にも繋がる問題が重く心にのしかかる作品だった。出演者の中では女優さん2人がとても良かったのだけど、特に母親が永山宛てに書いた手紙の「早くお金を送ってください。母」という、この“母”の言い方、愛情のかけらも感じられない、投げつけるように突き放す言い方が、この母親のすべてを表わしているようで非常に耳に残る一言だった。