KUNIO10『更地』

11/12 世田谷パブリックシアターで KUNIO10『更地』 作:太田省吾 演出・美術:杉原邦生

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元々の太田省吾の舞台では、初老の夫婦が自分たちの家が昔そこにあり今は更地になっている場所にやってきて過去の出来事や思い出を振り返るというものだったそうで、今回は夫婦を若い俳優が演じることで、観る者によっていろいろな解釈が生まれるような作品になっていたと思う。台詞には余白が多くて、言葉による説明に頼れない観客は、何が語られて何を伝えようとしているのか、想像力をフル回転することが求められる。2019年に杉原邦生が演出した太田省吾の沈黙劇『水の駅』も非常に集中が必要な舞台で、その緊張感がとても心地よかったけれども、今作もラップの語りやコミカルなシーンもありつつずっと張り詰めた空気が漂っていて、一体どこに連れていかれるのか全く気が抜けない舞台だった。そして観劇後に思ったのは、この夫婦はすでに亡くなっていて、生前の若い時の姿で更地にやってきて、自分たちの人生の断片を語り合っていたのではないかということ。共に生きてきた日々の何気ない出来事を胸に抱きしめる場所。この更地に立ち、愛おしくかけがえのない時間を共に過ごした幸せを振り返る2人は、いつかまたどこかで巡り合う定めの2人なのだという小さな予感。作家や演出家の意図とはきっと違っているだろうけど、私はこの作品をそんな風に受け止めた。