METライブビューイング『Fire Shut Up in My Bones』

1/31 東劇でMETライブビューイング『Fire Shut Up in My Bones

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コロナの影響で1年半ぶりの開幕となったMET、シーズンのオープニング作品はMET史上初の黒人作曲家による新作オペラ。現代のアメリカを舞台に、7歳の時に年上の従兄から性暴力を受けたチャールズの苦悩を描く。奨学金を得て優秀な成績で大学に進学し、かわいい彼女もできたけれど、心の傷は決して消えることがなく、チャールズは復讐心を募らせていく。有名どころの作品もほとんど観ていない初心者の私には、オペラに対して何となく持っていたイメージが根底から覆される舞台だった。私がこの世の中でなによりも許せないと感じるのは子供に対する暴力だ。抵抗できない小さく弱い存在を力で捻じ伏せることは最低最悪な行ないだと思う。それは一生のトラウマになり、チャールズが原因は自分にあったのだろうかと自身を責める姿が非常に辛い。長い年月苦しみ続けたチャールズが過去から立ち直る兆しを感じさせて幕は下り、自分を許して新しい一歩を踏み出そうとする覚悟に胸を打たれた。休憩中のインタビュー映像で演出家が言っていたけれど、今作は今までオペラを一度も観たことがないという観客が劇場に詰めかけていたそうで、もちろん初の黒人作曲家の作品ということもあるだろうし、現代に生きる自分たちと等身大の話だという共感もあるのだと思う。METはコロナ禍を経てさらに挑戦的・創造的なオペラハウスになったと言われているのだそうで、最新の舞台を映画館で上映するMETライブビューイング、今年もできるだけ観ていきたい。