風姿花伝プロデュース『ダウト ~疑いについての寓話』

12/8 シアター風姿花伝で『ダウト ~疑いについての寓話』 作:ジョン・パトリック・シャンリィ 翻訳・演出:小川絵梨子

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1964年のニューヨーク、ブロンクスカトリック系ミッションスクールが舞台。口やかましく厳格な校長のシスター・アロイシス(那須佐代子)は、若さと親しみやすさで生徒に人気のフリン神父(亀田佳明)がひとりの男子生徒と不適切な関係にあるのではないかという疑いを持つ。この生徒が校内で唯一の黒人ということもあり、問題が地域へ与える影響を憂慮するシスターは、神父を部屋に呼び出して事実を問いただす。フリン神父が手を出したに違いないと思い込んでいるシスターは、神父の否定にも説明にも全く耳を傾けず、激しく言い争う2人の言葉の応酬は緊迫感に満ちて非常にスリリングだ。シスターが神父に抱く強い反感は、もちろん生徒たちの身を案じる立場からの責任もあるだろうけれども、シスターの方が年上で経験を重ねているとしても立場的には神父の方が上という宗教界における男性優位(劇中でもしばしば示される)に対する反発、シスターが抱えている抑圧からくるものだということも見て取れる。シスターは黒人生徒の母親を学校に呼んで、自分の疑いについて伝えるのだけど、母親は「息子にはそういう傾向があるかもしれない。それが許せずに父親は彼を殴る。理解してくれる人が現れたなら息子にとってはいいこと」と言う。息子が同性愛者かもしれないという母親の言葉がまたシスターには信じがたく許しがたいものなのだ。異なる意見や考え方を拒否して自分だけが正しいとする態度、そして噂や嘘をあたかも本当であるように受け入れていくことなど、この物語で描かれることは現代の社会にも鋭く刺さるものだ。シスターの疑った通りのことが本当に起きたのか答えは明かされない。その真実を暴くことがテーマではなく疑うという行為・感情について観客それぞれが考える作品なのだと思った。4人のキャストは皆さんとても良かった。亀田佳明は新国立劇場で観た小川絵梨子演出の「タージマハルの衛兵」がすごく印象に残っているけれど、今回の神父役もただの好青年ではない何となくいけすかない感じを滲ませる人物として立ち上げていて巧いと思った。那須佐代子はけっして狙っている訳ではないだろうけど思わず吹き出してしまう持ち前のコミカルさが今回もすばらしい。このコミカルさが校長を近寄りがたいだけではなく人間味のある人物に膨らませていると思う。そしてシスター・アロイシスには「カッコーの巣の上で」のラチェッド婦長を思わせる部分があるなと私は感じて、那須佐代子がラチェッド婦長を演じたらきっとものすごく良いだろうなと思ったりした。