『キネマの天地』

6/23 新国立劇場小劇場で『キネマの天地』 作:井上ひさし 演出:小川絵梨子

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昭和10年、築地の東京劇場に日本映画界を代表する4人の女優、田中小春(趣里)、滝沢菊江(鈴木杏)、徳川駒子(那須佐代子)、立花かず子(高橋惠子)が集まってくる。新作映画のための打ち合わせ、というのは口実で、監督の小倉寅吉郎(千葉哲也)は上演中の舞台で亡くなった妻・松井チエ子の死因を毒殺だと考え、その犯人探しのために4人を呼び出したのだ。チエ子の日記に残された「わたしはTKに殺される」という文字。真犯人はこの中の誰なのか。小倉は助監督の島田(章平)に動機を調べさせ、万年下積み役者の尾上竹之助(佐藤誓)を刑事役に雇って真相を探ろうとする、という推理劇。なのだけど一幕目では女優あるある風なバトルが4人の間で繰り広げられ、二幕目では殺しの疑いを掛けられてもなんのその、開き直って相手を言い負かしていく女優陣がとにかく小気味よくて痛快で、声を出して何度も笑った。4人ともめちゃ楽しそうに嬉々として演じていて、なかでも那須佐代子のコメディエンヌぶりは最高だった。そして犯人は実は…と意外な人物が明かされるのだけど、そこからの佐藤誓の一人語りがほんとうに素晴らしくて胸に迫って泣かされた。ああこれで幕になるのかと思いきや、さらにここから「そうきたか!」というどんでん返しのハッピーエンドが待っていた。ひとつの作品は大スターだけではなく沢山のひとの力が合わさって作られているのだということ。映画・演劇への熱い想いと愛に満ち溢れた、夢みたいに幸せで素敵な舞台だった。「蒲田行進曲」が流れるカーテンコール、キャスト全員に心から拍手した。