はえぎわ『ベンバー・ノー その意味は?』

11/8 新宿シアタートップスで、はえぎわ『ベンバー・ノー その意味は?』 脚本・演出:ノゾエ征爾

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はえぎわは前回2019年の20周年記念公演を観た時にも思ったのだけど、長年劇団をやっている強みというかお互いに気心が知れた者同士という空気感が良い。ピリピリとかギスギスとかがなくて居心地が良い。今作では11名の劇団員のうち外部出演中のメンバーを除いた7名に客演として内田健司が加わり「なくなる」ことの連鎖が描かれていく。劇の冒頭に「テーブルがない」と言うことによってそこにテーブルがあったことが伝わる、なくなったという事実によって在ったことが確定する、というような会話があるのだけれど、登場人物たちは些細なきっかけから仕事がなくなる信頼がなくなる尊敬がなくなる笑顔がなくなる余裕がなくなるといった具合に、様々なものを次々になくして途方に暮れていく。前半はそれぞれの役者の持ち味がいかんなく発揮されて、息の合った掛け合いと間合い、言葉の面白さに思わず噴き出したり声を出して笑ってしまう場面が続いてとても楽しい。けれどもずっと在ってほしいもの、なくなってほしくないと心から願っているものは何なのか、ケン(内田健司)とユリコ(川上友里)が何度も何度も何度も何度も出会いを繰り返しているのは何故なのか、その答えが明かされてこれはまさかのラブストーリーだったのだと分かった瞬間、胸が詰まって泣きそうになってしまった。こんなに切なくて胸を打つ結末は予想もしていなかった。物語の世界に引き込まれて溺れる快感。すごく良い作品だった。劇団公演ということで思う存分パワー全開の川上友里のすばらしさはもちろん(ほんとうにいつ観ても圧倒される大好きな女優さんだ)、客演の内田健司はさいたまネクストシアターの最終公演の時も印象に残る好演だったけれども、今回もこれで彼のファンになるひとが増えるのではないかと思うような活躍で存在感を示していた。