『由宇子の天秤』『クーリエ 最高機密の運び屋』

9/28 ユーロスペースで『由宇子の天秤』

9/29 TOHOシネマズ日比谷で『クーリエ 最高機密の運び屋』

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『由宇子の天秤』 事件の闇に光を当て真実に迫ることを信条としているドキュメンタリー監督の由宇子。思いがけず自分自身が当事者の立場になってしまった時、本当のことを公表するか嘘をつきとおすか、由宇子の心の天秤は揺れ動く。映画はずっと由宇子の視線で描かれていくので、由宇子の前で明かされていく事実を観客もその時初めて知ることになり、こうだと思っていたことが実は…という展開の連続で、登場人物たちの印象は反転し、正邪の境界は曖昧になっていく。由宇子が取材している被害者や加害者の家族に対するネットの悪辣な誹謗中傷を克明に描いてみせることで、由宇子自身の葛藤が全く他人ごとではなく感じられ、観客はこれが自分だったらどうするかという問いを突き付けられるのだ。息をひそめて暮らしている当事者たちの個人情報があっという間に拡散される恐ろしさ。報道に関わるマスコミの姿勢も含めて、現代社会へ強い警鐘を鳴らす作品だった。

『クーリエ 最高機密の運び屋』 東西冷戦下の史実を基にした映画という事で、英国のセールスマンであるウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)が西側のスパイとなり、モスクワの情報提供者である大佐と交流を深めていく中で彼の亡命に協力しようとしたところを逮捕され収容所に入れられる。前半は順調に進んでいたスパイ活動がロシア側に疑惑を持たれて徐々に暴かれていくサスペンスフルな展開なのだけど、ウィンと大佐が逮捕されてからを描く後半部分がこの映画の肝だと思う。スパイ容疑を否定するウィンは拷問に耐えることができるのか、大佐はウィンの秘密を守り通すことができるのか。追い詰められながらもお互いを信じたウィンと大佐の絆が最後の最後に示されて心を打つ。カンバーバッチの巧さはもちろん、いったい何キロ落としたんだという激痩せ演技もすさまじかった。男同士の友情を描いたスパイ物ということで韓国映画の「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」、とてもいい映画だけれどもそれをちょっと思い出したりした。