『プロミシング・ヤング・ウーマン』

7/23 TOHOシネマズ日比谷で『プロミシング・ヤング・ウーマン』

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 キャシー役キャリー・マリガンの振り切った演技はキャリア最高という賛辞も納得。ベイビーフェイスで思わず守ってあげたくなるような可愛らしい女性という固定されたイメージを払拭して、酔った女性を家に連れ込んでセックスに持ち込もうとするゲスな男たちをビビらせる様は小気味よく痛快だ。相手が実はしらふだったと知って慌てふためく男たちに、刃物を持ってるヤバイ女もいるから気をつけろとキャシーは言うのだけど、それは逆もありな話で、ホテルなら従業員とか他の宿泊客とかがいるけど、自宅に2人きりという状況でおとなしく引き下がる男ばかりとは限らず、逆ギレされて暴力をふるわれる可能性も大いにあるわけで、キャシーのやり方はかなり危険だと思う。それにキャシーに説教された男が心を入れ替えて二度と同じ行ないをしないかといえば決してそんな事はなく、変な女に引っ掛けられたという男同士の笑い話にされるだろうことは容易に想像できる。

キャシーの行動は、大切な友達だったニーナが衆人環視の中でレイプされ大学を中退して命を絶ったという悲惨な出来事によるものだけど、激しい怒りと共にニーナを助けることができなかった自分を責める気持ちがどこか投げやりな諦念に繋がっていると思う。この自分なんかどうなってもいいというような自傷願望が、ニーナをレイプした犯人を追い詰めていく展開の最後に繋がっていると思うのだけど、命を捨てる覚悟でしかけた罠だったのか、殺されることを自ら望んでそう仕向けたのか、できることならキャシーには過去のトラウマから立ち直って生きていってほしかったと思う。

監督・脚本のエメラルド・フェネルがこの映画で男性たちに向ける視線は容赦がないけれども、女性に地獄のような苦しみを与えるのは男だけと限定するのではなく、女性もまた女性の敵になり得るという部分もしっかり描いている。精神的な暴力においては性別どうこうは関係なくて、人と人が関わっていく中で他者の痛みを思いやること、他者の立場になって考えることが大切なのではとあらためて問われたように感じた。

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