『物理学者たち』
9/22 本多劇場で『物理学者たち』 作:フリードリヒ・デュレンマット 上演台本・演出:ノゾエ征爾
この作品は1961年に書かれたものだそうで、東西の冷戦、核戦争の脅威といった当時の世界情勢の緊迫感を背景に、科学の発展が人間社会にもたらす貢献と弊害について鋭い視点と毒のある笑いで描いている。60年経った今観ても、科学の進歩による新たな技術・発明は誰のためのものかを辛辣に問う内容は非常に見応えがあった。そしてこの舞台は二幕の“喜劇”であり、精神病院に収容されている3人の物理学者たちを演じた温水洋一、中山祐一朗、入江雅人の、3者3様の狂気が絶妙な間合いと佇まいからひたひたと迫ってくる様は圧巻の面白さだった。そこにただ立っているだけで醸し出される何とも言えない可笑しみ。この3人はもちろんのこと俳優陣は皆さん本当に良くて、掛け違いズレていく会話や心を読み合うような探り合いも小気味よく進んでとても楽しい。大好きな川上友里の出演シーンは笑いがとまらず、花戸祐介を昨年のくによし組以来ひさしぶりに観ることができたのも嬉しかった。殺人事件から始まるスリリングな物語の果てに、この物理学者たちの正体が明かされたところで人間の欲や身勝手さを刺す骨太な主張があって、これで終わるのかと思ったところにもう一段の展開が待っていた。最後まで刺激的で目が離せない舞台だった。