『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』

8/31 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオで『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび~しんそう、さんにんきちさ。) 作:野木萌葱 演出:シライケイタ

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まずタイトルに「三人吉三」と謳っているけれども、この作品は「三人吉三」ではなかった。和尚、お坊、お嬢にあたるような若者3人は出てくるけれども、もともとお嬢は男性が女性のなりをしているという設定が、この作品ではそのまま女性として描かれているし、名前もそれぞれ違っているので同じ名を持つ3人というところも異なる。社会からこぼれ落ちた若者たちとして3人を描くという解釈は串田和美コクーン歌舞伎の「三人吉三」でやっているけれども、この作品で3人が抗うのは社会でも世間でもなくそれぞれの父親であり、内容的にはこの父親3人(2人のやくざと1人の悪徳警官)の物語と言った方が正解なのではないかと思った。アウトローたちの任侠現代劇と紹介されているけれども描かれている世界観が昭和的というか古いし、若者3人は義兄弟の契りとは言わないまでも何らかの絆で結ばれるでもなく何となくつるんでいるだけで、最後3人一緒に船で旅立つとか言われても“何で?”って感じだし。というわけで「三人吉三」を期待して肩すかしをくらったわけだけれども、キャストの中では森優作と村岡希美がとてもよかった。特に村岡希美は父親たちを演じた渡辺哲、山本亨、ラサール石井というクセの強い面々の演技を巧みに受けとめて、そこからの切り返しも鮮やかで、5月に観たNODA・MAP「フェイクスピア」の時もすごく良いと思ったけど、今回もまた見事な仕事ぶりだった。