『徒花に水やり』

12/16 ザ・スズナリで『徒花に水やり』 作・演出:土田英生

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出演者5人のうち4人が劇作家であり演出家というある意味おそろしい座組で、やくざ一家に育った姉弟たちの、とある一日を描くホームコメディー劇。長女の千秋(千葉雅子)、長男の春吉(土田英生)、次女のフユ(桑原裕子)、父親が外に作った子供で裕福な家庭に養子に出された三女の奈津実(田中美里)。奈津実が恋人の菅原(岩松了)という男を伴って実家にやってくるのだけど、この菅原は過去に千秋たちの父親をだまして死に追い込んだ首謀者だった…。幕開きから千秋とフユの絶妙な掛け合いがめちゃくちゃ面白く、フユから「あたまがわるい」と何度も言われる春吉の常識知らずだけど愛すべきあたまのわるさもひたすら可笑しい。ひとりだけ育ちが違う奈津実のお嬢様感も社会からはみ出した姉兄たちと好対照。そして緊張すると全く話せなくなるという菅原の顔芸とも言える表情に何度も吹き出してしまう。俳優としても非常に魅力的な4人に囲まれて田中美里の世間ずれしていない雰囲気が、やくざな世界と交わらない感じを巧く伝える形で作用している。ぶつかりあったり罵り合ったりしながらも最後は家族っていいなあというところに着地して、ああ楽しかった面白かったと顔がほころぶ舞台だった。超満席のスズナリ、A列の前に桟敷席も出して、ソーシャルディスタンス何それの勢いでパイプ椅子をびっしり並べて、奥の席に入る人のために立ち上がって通路をあけて、前の人の背中に膝がつきそうなぎゅうぎゅう詰めに文句を言うひとは誰もいなくて、ああコロナの前の劇場はこうだったと観客全員が楽しんでいる感じがまたとても良かった。