劇団チョコレートケーキ『一九一一年』

7/15 シアタートラムで劇団チョコレートケーキ『一九一一年』 脚本:古川健 演出:日澤雄介

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歴史的事実をもとにした骨太な創作劇の上演を続けている劇団チョコレートケーキ。今作で取り上げるのは大逆事件だ。1947年まで存在した刑法73条大逆罪とは、天皇、皇后、皇太子等に危害を加えた者または加えようと計画した者を死刑に処すとされた法律。皇室に対する犯罪を企んだ時点で罪となり、刑罰は必ず死刑。そして控訴なしの1審限りで刑が確定するという恐ろしい代物だ。

この作品では1911年(明治43年)1月に大逆罪によって12人が死刑執行された事件について、唯一の女性被告である管野須賀子の取り調べを担当した若い判事の目線を通して、社会主義者たちの逮捕から判決に至るまでに何が起きていたのか、その裁判の様子をつぶさに追っていく。私は今回が初見だったけど初演は10年前だそうで、それ以来の再演との事。この大逆事件の裁判ではそもそも大逆罪が適用できるかというところから拡大解釈し、本来は罪に問えない者たちを脅し騙すことで計画に係わったという自白を引き出し、最初から有罪=死刑判決ありきで仕組まれたものであったことが明らかにされていく。裁判の方針に大きな疑問を抱く予審判事、自分の死刑は当然だが他のひとたちは無実だと訴える須賀子、死刑判決を世間への見せしめとすることで権力を握り続けようとする元老、被告の無罪を勝ち取るためにひとり熱弁をふるう弁護士。今回も俳優陣の演技は本当にすばらしく見応えがあり、暗転なく切れ目のない場面転換はスピーディーで、これはこの先どうなるのかと引き込まれて目を離すことができない。権威や権力を否定して自由で平等な社会の実現を目指す革命がこれから必ず起こるという須賀子の死の間際の予言は実現することなく、このあと日本は長い戦争の時代に突き進み、ようやく1945年8月、敗戦という事実によって強制的に世の仕組みが変わることになるのだ。歴史を知ることから今を考えることの大切さを伝え、今回もまた深く心に残る舞台だった。