『君子無朋 ~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』

7/19 東京芸術劇場シアターウエストで『君子無朋(くんしにともなし) ~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』 作:阿部修英 演出:東憲司

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ドキュメンタリー番組の中国ロケの仕事でこの雍正帝のことを知り、いつか舞台化することを望んでいた佐々木蔵之介が、自らが主宰する演劇ユニットteam申(サル)の本公演とすることで実現したのが今回の上演なのだそうだ。

清の第5代皇帝である雍正帝はその13年間の在位中、執務室で毎日20時間働き、最期は過労死したという説が有力視されているのだという。中央のエリート官僚を無視して、広大な領土それぞれの地域を担当する223人の地方官たちと2万通にも及ぶ手紙のやり取りをして直接指示を出し、その手紙の内容はパワハラ全開の罵詈雑言と叱咤激励の嵐だったとか。

究極の独裁君主と言われた人物の謎と生きざまに迫るこの舞台で、雍正帝を演じた佐々木蔵之介がほんとうにすばらしかった。口跡の良さ、立て板に水の台詞回しの巧みさ、そこに絶妙のタイミングでふっと差し込む笑いの間。緩急も硬軟も自在に操って、聞く耳に心地よく響く。また前半のいかにも暴君然とした厳しさから、後半その裏側にあった顔が見えてくる辺りの表情や立ち居振る舞いの変化にも非常に説得力があり、その姿を追いながら心の中で何度も巧いなあと唸った。今だけではなく未来を見据え、国のため民のために自分は何を為すべきかを考え、常に現場の人間の声に耳を傾ける。あるべきリーダーの姿というものを考えさせられるような舞台だった。地方官の一人オルクを演じた中村蒼は最初台詞が先走って聞き取りにくく大丈夫かと案じたけれど、物語が進むにつれて雍正帝に正面からぶつかっていく若者の勢いと強い想いが伝わってきてよかったと思う。奥田達士、石原由宇、河内大和の3人は、宮廷の宦官になったり地方官になったり雍正帝の弟君たちになったりと何役もを演じ分けて、さらに舞台上で5枚の大きなパネルを動かす転換要員にもなる忙しさは大変そうだけれども目に楽しい活躍ぶりだった。