十二月大歌舞伎 第二部から『ぢいさんばあさん』

12/15 歌舞伎座で『ぢいさんばあさん』 原作:森鴎外 作・演出:宇野信夫

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伊織を仁左衛門さん、妻のるんを菊五郎さんが演じた「ぢいさんばあさん」を観たのはもうずいぶん前になるけれど、とても暖かく胸に沁みる作品だったので、今回共に初役の勘九郎さんと菊之助さんがどんな夫婦像をみせてくれるだろうと楽しみにしていた。相思相愛のおしどり夫婦のラブラブぶりが非常に可愛らしく微笑ましい。伊織が1年間単身京都で勤めをすることになり、来春また一緒に暮らせる日がくることを心待ちにしていた二人。ところが伊織が誤って人を斬ってしまい、越前にお預けの身になって江戸に帰ってくることができなくなってしまう。それから37年、ようやく罪を許された伊織とるんは再会の日を迎える。前半で若々しい二人の様子をしっかりと見せていることで、離れ離れの長い年月を経て白髪のおじいさんおばあさんになってもお互いを愛しく思い、ふたたび会えたことを心から喜び合い、これからまた二人の生活が始まる幸せを噛み締めるその想いが切々と胸にせまってハラハラ泣いた。勘九郎さんの伊織はとにかくチャーミングで、再会した妻に「るん、るん」と何度も呼びかける声には万感の思いが込められていてすばらしかった。菊之助さんのるんは美しさはもちろん年老いた姿にも品があり、しなやかな芯の強さも垣間見えてとても良かった。好きな演目を今回さらに好きになり、またいつかこの二人で演じる時には是非とも観たい。ただ一点、伊織の癖である鼻をさわる仕草の時に勘九郎さんがやたらと手をひらひらするのはちょっとやり過ぎではないかと思った。