JIM JARMUSCH Retrospective 2021『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ナイト・オン・ザ・プラネット』

7/5 UPLINK吉祥寺で『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)

7/7 ヒューマントラストシネマ有楽町で『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)

7/7 UPLINK吉祥寺で『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)

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ジム・ジャームッシュ監督・脚本作の中から12作品をピックアップして、都内のミニシアター4館で3作品ずつ上映する企画。ほんとうは制作年順に観たかったのだけど、仕事とバイトの合間でそう都合よくスケジュールを組むわけにいかず、まずはこの3作品を観てきた。

共通するのは耳に残る音楽の使い方と、車窓を流れる街角や景色を映すシーンが必ず入っていること。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』はニューヨークからクリーブランドそしてフロリダへ車で旅をする若者たちのロードムービーといえるし、『ナイト・オン・ザ・プラネット』は5つの都市を舞台にしてタクシー運転手と乗客のやり取りを描くオムニバス、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』では吸血鬼のアダムとイヴがデトロイトで深夜のドライブを楽しんでいる。どの作品でも映るのは落書きだらけの建物だったり荒れ果てた空き家だったり、観光用の景色ではないそこに実際にある街々から立ち上ってくる空気をそのまま切り取っているのが印象的だ。

印象的といえば、この3作の中で『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は未見だったので今回の上映で初めて観たのだけど、ティルダ・スウィントンはとても不思議な魅力を持った女優だと思う。作品によってすごくきれいに見える時とそうでもない時があるけど、この映画ではハッとするような美しさにあどけない可愛らしさが加わって、まさに人を超えた存在感で吸血鬼イヴを演じている。アダム役のトム・ヒドルストンはいつものチャーミングな笑顔を封印して、何世紀もひたすら愚行を繰り返している人間たちに絶望している憂鬱な悩める王子様で(アダムをハムレットに例える台詞がある)こちらは退廃美の極みみたいな感じだ。心から愛し合い惹かれ合っている2人。現代に生きる吸血鬼は人間を襲って血を吸うことはもうしない。人間の血がひどく汚れてしまって、悪い血を飲むことは命取りになるから。輸血用とか汚染されていない血液を手に入れることで血に対する飢えをしのいでいるのだけど、吸血鬼の命を脅かすのが人間の血だというのは皮肉な展開だ。アダムは歴史から何も学ばず同じ過ちを繰り返す人間を蔑んでいるのだけど、この数世紀、世界は良くなっていない、むしろ悪い方向に進んでいるのではないかと憂う警鐘の声がそこから聴こえた気がした。そしてそんな世界に最後に残るのは愛だけなのだという声も。

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