NTLive『メディア』

7/9 TOHOシネマズ日本橋でナショナル・シアター・ライブ『メディア』 原作:エウリピデス 脚色:ベン・パワー 演出:キャリー・クラックネル、ロス・マクギボン

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紀元前431年に初演されたというギリシア悲劇だけれど、観る者の心に強く響く内容を持った作品。上映前のインタビューで演出のキャリー・クラックネル(とても若い女性だったのでちょっと驚いた)が、この作品は「初めてフェミニストの立場で書かれたものなのか、女性を甘やかすとこうなるから男たち自戒せよと言っているのか」という話をしていて、併せて「古代の上演時には出演者は女性の役も含めて全員男性、観客も全員男性で、女性は観る事が叶わなかった」という話から考えると、書かれた時点では後者の女性蔑視的な態度の表れだったと見る方が合っているように思える。ともあれこの悲劇では夫に裏切られたメディアの心情を描くことに重点が置かれていて、本作の演出は男性支配による抑圧がメディアを追い詰めたという立場をとっている。狂気じみた愛情ゆえの執着、嫉妬、絶望、その果ての子殺しに至るメディアの嘆き苦しむ様を圧倒的な迫力で演じたヘレン・マックロリーが本当に素晴らしかった。コロスを演じる12人の女性たちのギクシャクとした動きのダンスや劇中で流れる不穏な音楽も、メディアの捻じれて歪んだ心を反映したものになっていたと思う。息を詰めてスクリーンに見入る90分だった。