『物語なき、この世界。』

7/13 シアターコクーンで『物語なき、この世界。』 作・演出:三浦大輔

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人生はただ出来事の積み重ねで、そこに物語など存在しない。それは人間が出来事に理屈をつけて勝手に作り上げるものだ。作家が言いたいのはつまりそういうことで、登場人物たちは同じような内容の話を繰り返し何度も語る。例えば劇中にも出てくる展開だけど、ある人が自殺したとしてその確かな理由は誰にも分からない、けれど残されたものたちは何とか自分が納得できる理由をそこに見つけようとして、折り合いをつけるために物語を作り出す、というようなこと。また「もしこれが映画とかテレビドラマだったら」とか「人生の主役、脇役」とか芝居に絡めたような台詞も劇中で何度か出てくるのだけど、日常会話ではまず使うことがない「物語」という言葉を登場人物たちが事あるごとに口にすることで、この舞台で交わされる会話自体がものすごく嘘っぽくなるというか、いかにも作り物めくというか、キャスト陣は決して悪くないのだけど居心地の悪さが拭えなかった。そんな中で星田英利の芝居がとても良くて非常に胸を打たれた(ちなみに星田英利の台詞には「物語」は出てこない)。お酒で人生を誤ったタチの悪い酔っぱらいのおじさんが、別れた妻がやっているスナックで、もう一度やり直したい寄りを戻したいと訥々と語る、その姿からこの男の抱えている哀しみや孤独がわっと迫ってきてカラオケで歌う「まちがいさがし」にもグッときてしまった。あらためて良い役者だなあと思った。