劇団チョコレートケーキ『帰還不能点』

2/24 東京芸術劇場シアターイーストで『帰還不能点』 作:古川健、演出:日澤雄介

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1940年(昭和15年)に開設された「総力戦研究所」は、各官庁・陸海軍・民間から選抜された若手エリートを研究生として日米戦争の総力戦に向けた教育と訓練を施した組織。1941年に第一期研究生によって行われた机上演習(シミュレーション)で、研究生たちはそれぞれ模擬内閣の一員として具体的な各種のデータを基に日米戦争の展開を予測。その結果は日本必敗というものだった…。終戦から5年後に久しぶりに集まった研究生たちは、当時の演習よろしく首相や大臣、軍人を酒席の余興として演じることで、なぜ日本は勝てる見込みのない戦争に突き進んでいったのか、戻れない一線を越えてしまったのか、その背景を明らかにしていく。政治家や軍人を名指しにして責任は誰にある彼にあると声高に言い募っていた彼らが、一人の男の発した「あの時、日本必敗と知りながら自分たちは何もしようとしなかった。自分たちにできることが何かあったのではないだろうか」という問い掛けに動揺し困惑する。仕方がなかったという者、過去にとらわれず未来を見るべきだという者。そしてそれぞれが抱えてきた後悔をお互いが知ることで、その想いに向き合った彼らは、最後にもう一度、1941年に戻り模擬内閣のメンバーとして「日米戦争回避」に向けた議論を始める場面で物語は終わるのだった。今を生きる私たちには戦争の歴史・戦争の時代を風化させることなく語り継ぐ責任があるのだとまっすぐ骨太に伝える良作。いつもながら出演者の演技はとてもしっかりしている。この「総力研」という組織についてはこの舞台を観て初めて知ったのだけど、当日パンフレットに記載されていた関連書籍を読んでみたいと思った。