iaku『フタマツヅキ』

10/28 シアタートラムで iaku『フタマツヅキ』 作・演出:横山拓也

f:id:izmysn:20211101120542j:plain
f:id:izmysn:20211101120550j:plain

iakuを初めて観たのは2017年に新宿眼科画廊の地下スペースで上演された「粛々と運針」で、タイトルがいいなという理由だけでチケットを予約して、観てみたらこれがとても胸を打たれる会話劇ですごく感動して、以来 iakuの公演はずっと観続けていて、観客が30人という頃から考えるとシアタートラムでやるような大きな団体になったのだなと感慨深い。今回の作品は理解し合えない父と息子の話、と思っていたら、実はこれは夫婦の話でもあり、善意や好意からの言動が時には相手にとって負担であったり重荷だったりするという事、良かれと思ってしたことが相手を深く傷つける場合もあるという事が、厳しく辛辣な視線で描かれていく。そして「頑張って」「ずっと応援する」「あなたを信じている」「わたしが支えになる」そんな言葉に対して、息苦しいと言えず、やめてくれ開放してくれと言えず、うまくいかないのは相手のせいだと逃げを打つ人間の弱さや狡さもまた赤裸々に炙り出される。相手が何を感じ考えているかを勝手にこうだろうと決めつける傲慢さ、もしくは相手の気持ちに想像が及ばない鈍感さ。家族という枠があっても、それぞれは別々のひとりひとりの人間なんだということ。そして家族間に限らず、他者との係わりにおいて私たちは、自分が相手の立場だったらと置き換えて少し考えてみることが必要なのだ。ハッピーエンドという終わり方ではない、けれど黙って食卓をかこんで座る夫婦と息子の姿からは静かな柔らかな空気が伝わってきて、大丈夫、また結び直せると思うことができた。キャスト陣の演技はとても良く、家族たちの現在に何故こうなったのかという経緯が差し込まれていく構成が効いていて、iakuの作品の中で私には「粛々と運針」に次いで好きな作品になった。