『ちょっと思い出しただけ』

3/8 シネ・リーブル池袋で『ちょっと思い出しただけ』

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映画を観たあとに松居大悟監督のインタビュー記事を読んだ。前作の「くれなずめ」のレビューで「心臓を投げ合うシーンいらない」「超展開が蛇足」と書かれたことで結構落ち込んで、今回はスタッフや出演者の「やめた方がいい」という意見を聞いて終盤のシーンを書き変えたらしい。去年観たゴジゲンの舞台「朱春」でも床下から何だか得体の知れないモノが出てくるという展開があったし、私は「くれなずめ」の前述のシーンも楽しんで観たので、そういう松居脚本らしさがなくなったのはちょっと残念な気がした。でもその分、間口が広くなって受け入れられやすい作品になっていたと思う。この映画は何と言っても伊藤沙莉が本当にすばらしい。ダンサーの照生(池松壮亮)と、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)の、別れから出会いに遡って描かれる物語の中で、誰もが思い当たるような恋愛中のあるあるを等身大にいきいきと演じていて、コロコロ変わる表情もとてもかわいく好感が持てる。そして「ちょっと思い出しただけ」というタイトルもいいと思う。昔好きだったひとの事をふとしたきっかけでちょっと思い出す、でもそれはただそれだけのこと。胸をよぎる思いが甘いにせよ苦いにせよ、交差することのなかった人生をそれぞれ明日も生きていくのだ、戻れない過去を抱えて誰もが今日を生きているのだと、エンディングの夜明けのシーンにはそんな思いが重なるように感じた。