『冬のライオン』

3/2 東京芸術劇場プレイハウスで『冬のライオン』 作:ジェームズ・ゴールドマン 翻訳:小田島雄志 演出:森進太郎

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1183年のクリスマス、イングランドの国王ヘンリー二世のもとに集まった妻のエレノア、三人の息子たち(リチャード、ジェフリー、ジョン)、ヘンリーの愛妾アレー、フランス王でアレーの異母弟フィリップ。王位と領土を巡って腹に一物ある面々によって壮絶な騙し合いと裏切り合戦の一夜が繰り広げられる。チラシのビジュアルから重厚でシリアスな芝居をイメージしていたのだけど、予想に反して思わず吹き出してしまうコミカルな場面の連続で、権力も欲しい愛も欲しい人間たちが右往左往する様が笑いの中に炙り出される非常に見応えのある舞台だった。俳優陣も達者で、特に佐々木蔵之介(ヘンリー王)と高畑淳子(エレノア)の掛け合いはとても息が合っていて、テンポの良さと絶妙な間合いが“夫婦漫才”かというようなノリですごく楽しい。お互いに憎まれ口を叩きながらもふと愛しさがこぼれてしまうような、切々と心情を語る言葉に思わずホロリとして、なのに次の場面では「え、さっきの嘘なの?」とちゃぶ台ひっくり返される。こんな会話が夫婦間だけでなく、父と息子たち、母と息子たち、兄弟たちのあいだでも同様に交わされて、その言葉は嘘か真か、本音はどこにあるのか、二転三転する展開は先が読めずスリリングで目が離せない。クリスマスなのにこの家族たちに一家団欒のムードは全くなく、それでも自分を愛してほしいという想いを諦め切れない哀しさが垣間見えて切ない。物語が進むにつれて、この夫婦は互いに相手を強く愛し過ぎていたがために、その分憎む気持ちも一層深くなったのだと分かる。そうして長い年月を過ごし歳を重ねて、いつしか男と女というよりも人間同士として、他の誰よりも理解できる存在であり心を許せる存在としてお互いを認めているのだ。2人のあいだには何があっても消せない繋がりがあることを静かに伝える結末、その余韻に心地よく浸った。