コクーン歌舞伎『天日坊』

2/9 シアターコクーンで『天日坊』 原作:河竹黙阿弥 脚本:宮藤官九郎 演出・美術:串田和美

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幕末以来長らく上演されることのなかった黙阿弥の戯曲を、宮藤官九郎の脚本で『天日坊』として復活上演したのが2012年。今回10年ぶりの再演ということで、私は今回が初見だったのだけどすごく面白かった。休憩20分を含めて3時間、物語の世界に引き込まれ没頭した。こんなに面白い戯曲の上演が絶えていたのは何故だろうと思ったけれど、元々の非常に長い戯曲を半分に削ることから脚本作りが始まったと宮藤官九郎が公演パンフに書いていて、物語の芯を探り、どこを際立たせるか絞り込んで凝縮した結果この面白さが生まれたということで宮藤脚本すばらしい。ふとしたきっかけから将軍頼朝の落胤になりすました孤児の法策(中村勘九郎)は、鎌倉を目指す旅の途中で盗賊・地雷太郎(中村獅童)とその妻お六(中村七之助)と出会う。自分が実は木曾義仲に繋がる血筋の者であったことを二人から知らされた法策は、天日坊と名乗りを上げ、天下を取るという野望を胸に人生を賭けた大勝負に出る…というのが大筋なのだけど、法策/天日坊の波乱万丈の生涯を描くことが軸になっているので勘九郎さんは出ずっぱりの大活躍だ。この舞台では生バンドによる演奏が効果的に使われていて、法策が初めて人を殺す場面ではトランペットの音色がその緊張感を煽る。衣装も面白くて七之助さんの着物の髑髏をあしらった大胆な柄が目を引いた。全編通して法策が何度も口にするとおり「マジか…」の連続、こう思っていたら実は…が繰り返されて人間関係は絡み合い、敵味方は二転三転する。そして親が誰かということで持ち上げられたり、身寄りがないことで蔑まれたりする理不尽、何者でもなかった法策が身分を利用してのし上がろうとする姿に、これも宮藤官九郎が書いていた「あまり使いたくない言葉だけど親ガチャの話」という視点を脚本に加えたことが、今の時代の空気とも重なって観客に受け止められたのだと思う。本当に見応えのある舞台だった。またいつか必ず再演してほしい。きっと観に行く。

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