八月花形歌舞伎から 第二部『真景累ヶ淵 —豊志賀の死』『仇ゆめ』

8/11 歌舞伎座で『真景累ヶ淵 —豊志賀の死』『仇ゆめ』

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真景累ヶ淵』ずいぶん昔になるけれど先代の芝翫さんの豊志賀、勘九郎時代の勘三郎さんの新吉での上演を観た時に感じた怪談噺の怖さ・面白さが、今回は全く感じられずなんだか別の芝居を観ているようだった。豊志賀(七之助)と新吉(鶴松)の仲はすでに人の噂にもなっているけれど、近ごろ病んでずっと臥せっている豊志賀は、20歳も下の新吉がこんな自分に愛想をつかして去っていくのではないか、若い娘のお久(児太郎)に心変わりしたのではないかと気を揉み、新吉に絡んでくどくどと愚痴を言う。新吉はそんな豊志賀の看病に心底疲れて嫌気がさしている。新吉の伯父勘蔵(扇雀)の台詞から、金を目当てに新吉が豊志賀に言い寄ったのだということが分かり、騙されていたとも知らず新吉にすがる豊志賀の心情は哀れで悲しい。以前観たときは確かにその哀しく深い想いが伝わってきて、だからこそ死んでも幽霊となって新吉を追い続ける豊志賀の執念が恐ろしくもあったのだけど、今回は新吉に対する豊志賀の執着や嫉妬がグロテスクで滑稽なものに見えてしまい、客席からは何度も何度も笑い声が起こるのだ。役者が言っている事やっている事は同じでもこんなに違いがでてしまう。怪談ではなくギャグみたいになっていてとても残念だった。三遊亭円朝の口演から作られたというこの芝居、もとの噺を聞いてみたいと思った。

『仇ゆめ』 深雪太夫に恋した狸、舞の師匠を想っている深雪太夫太夫に惹かれながらも妻子ある身の師匠。それぞれの恋は成就することなく夢と終わる。楽しくて最後はちょっと切ない舞踊劇。勘九郎さん演じる狸は愛嬌にあふれていてチャーミングで観ているだけで笑顔になるし、その純情には思わず涙を誘われた。