コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』

5/19 シアターコクーンで『夏祭浪花鑑』

並木千柳 三好松洛 竹田小出雲 作「夏祭浪花鑑」より  演出・美術:串田和美

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コクーン歌舞伎で13年ぶりに「夏祭」の上演ということで、観劇前に2003年版、2008年版の公演パンフレットを久しぶりに読み返したのだけど、観劇当日の興奮と舞台の熱気がまざまざと蘇ってきた。とても楽しみにしていた今回の公演、上演時間を休憩なしの2時間10分に短縮し、発端とお鯛茶屋の場はささっと説明するだけでカット、最後の立ち回りも短くしてキャストの人数も減らしているので、コロナ対策で致し方ない事だけれども時間内に収めるために若干駆け足の上演になったように感じた。

ということで住吉鳥居前から芝居は始まるのだけど、勘九郎さんの団七九郎兵衛がその声といい間の取り方といい驚くほど勘三郎さんそっくりで、なんだか泣きそうになってしまった。序幕だけでなく終幕までまさに生き写しの団七で、勘三郎さんの映像を観てものすごく研究したのだろうと思う。

釣船三婦内の場は、徳兵衛を演じる松也さんが女房お辰も兼ねているのだけど、これはいただけなかった。2003年版では団七を演じた勘三郎さんがお辰と二役で、2008年版では勘太郎(当時)・七之助兄弟が公演日程の半分ずつを分けて演じたお辰。特に勘三郎さんのお辰は男勝りの意気地がめちゃめちゃ格好良かったので、今回は団七とお辰二役を勘九郎さんが演じるのかと思っていたのだけど、上演時間が短くなったために団七からお辰に変わる時間が取れなかったのか、もう一人お辰を演じる役者を立てることを避けたためなのか、松也さんのお辰は合っていないな、これは違うなという思いが拭えなかった。

この演目の大きな見せ場である長町裏は、場内の照明が落ちて次第に暗くなっていく中で、面明かりが団七と義平次を浮かび上がらせ、団七のひとつひとつの見得をサーチライトで照らし出す演出が美しく見応え十分。祭囃子の喧騒のなかで舞台後方の扉が開いて、ここで団七と祭の若い衆が外に駆け出していくやり方は初めて観た。

通常ならここで休憩が入るところだけど、笛・太鼓・鐘の演奏で繋いで九郎兵衛内の場。ここの松也さんの徳兵衛は悪くなかったし、七之助さんのお梶も良かった。この場面の照明は以前の上演時にも思ったけれどとても美しい。

そして同屋根の場、コクーンの「夏祭」はここぞとばかりに繰り出されるスピード感あふれる立ち回りが大きな魅力で、前回、前々回とも客席の通路まで役者が駆け回り観客を興奮の坩堝に引き込んできた場面なのだけど、最初にも書いたとおり今回は時間も捕手の人数も減らしているので、立ち回りのダイジェスト版というような作り方になっていたのはちょっと残念だった。最後に後方の扉が開くことはなく、追い詰められ閉じ込められた団七と徳兵衛が死を覚悟し、「明日に向かって撃て」のブッチとサンダンスよろしく客席(捕手)に向かって駆け出すところを照明を点滅させてストップモーションのように見せ、暗転した中、捕手に斬り掛かる二人の映像が映されたところで幕。以前のように捕手や警官を後方扉から駆け込ませたりしないのは人を減らして密を避けるコロナ対策ゆえの選択かもしれないし、扉が開かないことでコロナ禍の閉塞感を表わす意図もあったのかもしれないけれど、これはこれで良い幕切れだと思った。カーテンコールも1回のみですぐに客出しが始まって、観劇後にゆっくり余韻に浸る暇はなかったけれど、勘九郎さんの団七がとても良かったことに満足し気持ちよく劇場をあとにした。

夏祭浪花鑑 | 歌舞伎演目案内 – Kabuki Play Guide –