NODA・MAP『フェイクスピア』

5/26 東京芸術劇場プレイハウスで『フェイクスピア』 作・演出:野田秀樹

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 恐山で50年来イタコ見習いをしているアタイ(白石加代子)のもとに、謎の箱を抱えた男mono(モノ:高橋一生)と、アタイの元同級生という楽(タノ:橋爪功)がやってくる。タノは誰を口寄せしてほしいのか、問うたびに相手は娘になったり妻になったりするのだけど、呼ばれたひとはなぜかアタイにではなくモノに憑依して、ここでシェイクスピアの4大悲劇のさわりが演じられる。タノがリア王やオセローになり、モノがコーデリアやデズデモーナになるといった具合で、ここは序盤の楽しい場面だ。高橋一生を舞台で観るのは初めてだったけれど、よく通る声がとても良い。モノが持っている箱にはどうやら「真の言葉」が入っているらしく、シェイクスピアとその息子フェイクスピアの二役を野田秀樹が演じて、フェイク(嘘)が溢れる現代の風潮を刺す芝居なのだと思っていたら、物語はそこから想像もしていなかった方向に展開する。いや私にとっては予想外だったけれども、モノが幕開きから何度か口にする「あたまを下げろ!」という台詞や、この日が8月12日だという台詞から早々に気づいた人もいたかもしれない。以下ネタバレになるけれど、モノが持っていた箱は日航123便ボイスレコーダーだったのだ。チラシに野田さんが書いている「コトバの一群」とは墜落直前の機長たちの会話のことであり、ボイスレコーダーに残されていたやりとりがその通りに舞台上で再現される20分近いシーンの張り詰めた空気、芝居というフィクションの世界の中でノンフィクションの言葉に打ちのめされた。タノが本当に口寄せしてほしかったのは父親であり、機長(モノ)が36年経って息子(タノ)に伝えたかったのは「生きろ」という声で、それはタノに渡された箱を通して客席にも強く届けられた声なのだった。